ゲストハウスの継続を難しくするもの

 9月に入って、馴染みのゲストハウスの閉業宣言が相次いだ。「コロナ禍だから」、そう書いているところもあった。その理由は一般的に「そうだろうな」、と受け入れられやすいんだけれど、辞める方の心情を推察するとその「コロナ禍だから」の一言で片付けられるほど簡単なものでもないのではなかろうか、そんなことを思いながら書く。

「スタートするのは簡単だけれども、続けるのは難しい」

 物件を探し、金策し、施工し、許可取りをし、ようやく開業日にこぎつけた経営者は、そこでひとつの達成感を味わう。でも、そう。ようやくそこがスタートライン。1166バックパッカーズだって、開業半年で東日本大震災があり(当時は人も雇ってないし、ひとり身だったりしたのもあって意外にも不安はそれほどなかったけれど、それでも)「スタートするのは簡単だけれども、続けるのは難しい」と思うことはその後も多々あった。

続けることを難しくするのは、単に数字の問題だけではない

 冒頭に書いた「閉業宣言」をした同志(と私が勝手に思っている)たちがどう思って閉業に至ったかは横に置いておいて、以下は1166バックパッカーズの店主の飯室自身が感じることというのを念頭に置いて読んで欲しい。
 
 今回書きたいのは、「続けることを難しくするのは、単に数字の問題だけではない」ということ。もちろん数字的に経営がうまくいっているかどうかは、事業を続けるか否かの決断に大きく関わる。ただそれ以外にも、例えば「ライフステージの変化」そして「興味の変化」というのがある。

ライフステージの変化

 初めたときはひとり身だった店主も、気が付けば結婚し、子どもが産まれたりする。こういったライフステージ変化は女性特有の問題だと思われるかもしれないけれど、おそらくゲストハウスを経営している多くの男性も心のどこかで「子どもと過ごしたい…」「子どもと一緒にご飯食べたい…」と思っているのではないか。宿運営は家庭の夕食・風呂・就寝というような時間の流れと完璧なほどにバッティングしてくるから。
 実際問題、赤ちゃんは女性のお腹から出てくるし、産後は怒涛の授乳もあるので、女性は絶対的に変化を遂げないといけない瞬間ではある。男性はどうやったらうまく折り合いをつけられるか…と考えるタイミングだと思う。
 ちなみに1166バックパッカーズは夫婦で営業しているわけではなく、あくまでも、飯室(女性です)が宿主で旦那は別の仕事をしているため、出産時はまさに「閉業」か「アルバイトに任せる」かという二択になり、後者を取ったわけだ(幸い、その頃はご開帳特需の翌年。全体的に右肩上がりの年だったので、人件費を払ってでもちゃんと黒字で残せるという経営判断ができた。閉業はまったく視野になかった)。

興味の変化

 20代のころバックパックを背負って世界を旅しながらゲストハウスにお世話になってきた店主たちも、40代くらいになってくると旅の仕方が変化することも。例えば若いころより早く眠くなったり、早く目が覚めちゃったり、前ほど身軽に上段のベッドに登れなかったり。そんな身体的な変化に加えて、夫婦旅や子連れ旅、親を連れての孝行旅行のなかで、「一棟貸しって便利〜!」「旅先でも身体にストレスのないもの食べたいなー」「旅館もけっこうおもしろいよな!」なんて、旅という軸は変わらずとも少し興味が広がっていったり。

続けるのは難しい、難しいが続けたい

 私は30才ちょうどで開業をしているんだけれど、開業したころはそんなふうにライフステージや興味が変化してゆくことまで頭が回っていなかった。でもいざやってみたら、たかが十数年の営業ですら、内的要因の変化を感じる。
 一方で、普遍的に「ゲストハウス」という種類の宿が社会的に必要とされていて、いや、それを必要とする社会であって欲しいと思っていて、社会が「ゲストハウス」を必要としてくれていると心底信じている。あの出会い多き空間は知らない世界を教えてくれる場所であり、ここにいていいよと招き入れてくれる居場所であり。やっぱり、「ゲストハウス」という種類の宿が好きで、続けてゆくことになるわけなんだけれども、そういうもろもろを、ごちゃごちゃ考えながら「でもやっぱり、続けない」という判断をする方たちがいるのももっともなわけで。
 何が言いたいかというと、「閉業宣言」をした同志たちはきっとこれからも心の中に「旅」という軸を持ち続けて、「ゲストハウス」という種類の宿のことを好きでいるんだろうな、なんてことを思っています。

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