SNSの使い分けは意図的。大阪市立芸術創造館の館長・重田龍佑さんが語る、TwitterとFacebookの使い方・考え方とは?

ファンづくりのイロハ(いずみホール主催)
文化施設に勤務されているSNSの担当者は、日々どんなことを思って情報発信しているのでしょうか。

アートマネジメント講座「ファンづくりのイロハ」でのトークに先駆けて、今回は大阪市立芸術創造館(以下、芸創館)の館長である重田龍佑さんに、ソーシャルメディアの活用について、日々どんな工夫をされているのかうかがいました。

個人でSNSアカウントをつくれば、肌感覚がわかる。

ー@geisouのTwitterアカウントをつくろうとはじめに言い出したのは重田さんでしょうか?

結構前ですね。僕自身がTwitterをはじめたのも2008年4月で、芸創館のアカウント @geisou は2009年10月からはじめました。

10年前ってTwitterがまだ一般化していなかった頃で、ミニブログという謎の紹介がされていて、つぶやくという発信が認識としてなかった時代に、何かつぶやくという方法ができるツールがあるらしいと聞いて、どう使ったらいいのかぜんぜんわからなかったんですよ。

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でも宣伝はしたかったんです。当時、ホームページはあったし、スタッフblogもやってましたが、それよりも気軽に発信できるツールみたいやでとスタッフ間で話題になりました。

その前って mixi が流行っていたじゃないですか。あの前提があってのいまのSNSだと思うんです。いきなり公式アカウントを作ってしまってどうしようか、みたいな話から入ったわけじゃなくて、だいたいうちはなんでもそうなんですけど、最初に個人で使い出すんですよ。

ー個人のSNSアカウントを先につくっているパターンなんですね。

うちのスタッフは社員だったりアルバイトだったり、施設に勤めてたり企画の担当してたり、いろいろな立場の人間がいますが、会社や施設の誰々という以前に何かやりたい人の集まりだからかもしれません。

役者だったりミュージシャンだったり裏方だったりと、何かやりたいからそこに集まっていて、そのメンバーが集まって会社やグループになっているので、「君は演劇担当だよ」「はい、演劇ぜんぜん知らないですけどわかりました、4月から頑張ります」みたいな感じではないんですよね。

なので、いろんな新しいwebサービスやツールが出たときにまず自分が使ってみる。「使ってみて試してみろ」と会社が言ってるわけではなくて、気になるからまず使い出しちゃうんですよ。もちろん、そのへんのアンテナの感度が高いスタッフもいれば、そんなに高くないスタッフもいるんですけど。

個人的に使ってみたものが仕事でも使えるんじゃないかと思えば、全員に共有するという流れですね。

ー@geisouアカウントはどなたが動かしているんですか?

あれは1人の担当を置いているとかではなくて、スタッフみんなで動かしています。出勤してから、あ、いや、出勤せんでも(スマホなどから)動かしてたりもしますね。

ー見ていると、更新頻度が高いですね。

芸創館は演劇と音楽の練習スタジオなので、定期的に使ってもらう場所です。ですので、どこからどうつながるかわからないので、基本的に施設紹介についてはもう常に発信しておくようにしています。数で勝負しているようなものです。もちろんイベントをやるときにはその期間、集中的に発信したりもしていますけども。

ーそれは組織内でルールとして決めていかれた感じでしょうか?

あんまりガチガチにルールは決めてないですけれども、ただ「これは踏み越えているのではないか」というようなものは、みんなで使っていると感覚でつかめるようになりますね。例えばこんな毎日定期ツイートみたいなのばっかりやとあかんやろうとか、

自分で使っていればきちんと肌感覚としてわかるので、もしそんなふうになれば、もうちょっと頻度下げたほうがいいんじゃないかとか言うと思います。そのあたりも例えば分厚いマニュアルをつくったりしなくても、個人で使っているからこそ、良いことと悪いことをきちんと捉えられるようになるというのはあります。

ー芸創館に関わる何人くらいで動かしているんですか?

触ろうと思えばほとんどのスタッフが触れるんで、多いときで10人ぐらいですかね。まぁでも頻繁にさわる人もいればあまりさわらない人もいますよ。

ー自動更新はされていますか?

自動のツールも入れていますね。例えば「スタジオの紹介」だとか「空き状況はここから見れます」とかは自動更新ツールを使っています。

こないだ不具合が出るので変えたところですが、以前はtwiRoboというものを使っていました。Twitterが仕様変更してからサービス自体があんまりメンテナンスされていないっぽくって、今は、Botbird (ボットバード)というのを試しています。

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ツールなんでこのへんの流行り廃りは変わっていきますね。

TwitterとFacebookページの考え方。

ーTwitter に限らず Facebook ページはどうですか?

Facebookページは定期投稿はしてないですね。いっとき「Twitterと連動してみようか」と考えたりもしたんですが、おなじ内容が何度も何度も流れてきたりするのは、Facebookには効果的じゃないだろうなっていうのが、これも肌感覚なんですが。

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Facebookで投稿や写真などをチェックできます。

FacebookはTwitterのようなすごい情報の数というより、ひとつの情報の中身の方で見てる人の方が多いので、投稿に対してきっちり画像も何個か貼ってあって文章量が多くてというのを読みたいんだろうなと感じています。そのあたりは使い分けてますね。

作業量の問題であらゆる広報ツール全部に対応できてるわけじゃないんですよ。だからFacebookよりは、どちらかといえばTwitterを優先しています。

敢えて極端に言ってしまうと、Facebookはすでに知り合ったり、ファンになってくれている方向けの発信ツールで、初めての人と出会うときに一番良いツールではないかなと。もちろん知り合いがシェアしてさらにその知り合いへと数珠つなぎ的には増えていきますけど、浸透力や拡散性みたいものはTwitterよりもやや低いだろうなと思ってるので。

だから「新規顧客を獲得したい」という意図で流す投稿をFacebookページに力をかけるんだったらTwitterに比重をおきますね。そっちの方が同じ手間でも効果が大きいですし。もちろん全部やるにこしたことはないんですけど、時間が足りなくなるんやったら先にTwitterのほうかな。

意図的な公私混同。

ー重田さんの個人アカウントでもガンガンReTweetされていますね。

僕の場合はもう公私混同したような発信をしてるんですよ。それは意図的にここ数年やっていています。

芸術創造館の館長って公的な立場だし、もちろんそれは仕事なんですけど、仕事のこともつぶやくし、その一方でおやすみの日に月1日だけ古書店をやっているんですが、そういう仕事とはぜんぜん関係なくて完全に個人の趣味っていうことも同じところでつぶやくし。劇団にも所属しているんですが、劇団は仕事と同じジャンルだけど、仕事でやってる業務ではないんです。

日替わり店主の古本屋「みつばち古書部」(谷町線「文の里」駅下車すぐの「文の里商店街」内)
雨降りの中、日替わり店主の古本屋「みつばち古書部」を目指して初めての「文の里」駅へ。

そういう風に、例えばうちにはプライベートで映画の企画制作をしたり、音楽をやっていたりというスタッフもいます。じゃあその人のやっている事と芸創館は関係があるのって言ったら、直接的には関係ない事がほとんどです。個人的にそういう活動をしているってことであって。

個人と仕事の線引きはもちろんあります。でもそこの繋がりや経験が、結果として仕事の役に立つ場合があったりします。

例えば、芸術創造館のイベントをスタッフが個人アカウントで、自分のネットワークに拡散したり紹介してくれたりなんてことはしょっちゅうあります。

ーあれはすごい上手な使い方ですね。僕はそのほうが情報が届きやすいと感じています。

そうですね。僕の繋がってる人というのが、芸術創造館として繋がってる人もいますし、劇団の知り合いでつながっている人もいますし、古本屋の仲間で繋がってる人もいますし、それぞれの人に「僕はこんなこともやっていますよ」と届けると、もしかしたら「それ私も気になる」みたいなことがあるかもしれない。

まぁ、ないかもしれないです(笑)。でもSNSは興味なくてもスルーすればいいメディアなので。

ーファンをつくるということを意識して情報発信されていることはありますか?

意図的に僕がやってることすべてを同じアカウントでつぶやいてるんですよね。わける人の方が結構多いと思うんですけど。趣味ごとに違うアカウントにしたり、お店をやってる人でお店と個人をわけたりとか。

僕はそうやってわけることで、ものすごい細分化して届きづらくなるんじゃないかという感覚があります。元々それこそね、1万人とか10万人とかフォロワーがいるわけではないじゃないですか。言ってしまえば小さなネットワークしかもっていないので、であれば僕個人というものに全部僕がやっているものを集約すれば、一個ずつは100人200人だったとしても、5個6個あつまれば500人、もしかしたら1000人とかになるじゃないかと思って。

集合体にすることで、可能性にかけてるというのはありますね。僕を中心に繋がってるので僕がやっている芝居が好きな人は僕が興味を持った本が好きかもしれない。趣味がつながるみたいなのってあるじゃないですか。

そしてそれを1人でだけでなく、なにかをやるときに関わる人全員に広げられれば、関係者が10人20人いたら届く人はもしかしたら1万人になるかもしれない。そう思うんです。

ー複数人でTwitterアカウントを動かすにあたって、新しく入ってきたスタッフに伝えているルールとかってありますか?

ルールやマニュアルというよりも、まず企画や施設に対して正しい知識があるかどうか、どういうスタンスで何をやっていて、どういう人と接してるのかみたいなのが掴めてからじゃないと、安心して使わせられないですね。

多分口頭でお客様から聞かれることと一緒だと思うんですよ。「これについてはどうなんですか」と聞かれて答えられない人が発信ツールを持って発信してはいけないと思うんです。

ー忙しすぎるのでアルバイトの学生に担当してもらう、というところを聞いたことがあります。

それは怖いですね。うちは絶対それはやらないと思います。本来は一番施設のことをわかる人が発信したほうがいいと思いますし、僕らもアカウントで何か発信するときは、そのイベントの担当者が発信することがほとんどです。

僕がよくやるのが、以前の実例ですが、「狩野さんの広報のワークショップを芸創館で開催します」と、芸創館のアカウントでつぶやき、個人アカウントで引用リツイートして、「今から狩野さんといっしょにこんなこと考えてます。ぜひ来てください。僕もいます」とかつぶやきます。

ーあの考えている最中をつぶやくのってすごく良い使い方ですね。何曜日なら参加しやすいか、票をとって集めてはりましたね。

聞いたからといって多数決にするつもりはなかったんです。どれぐらい自分が考えていることと差があるのかなあということを参考にしたいなと思って。結局全部バラバラだったから、自分が「ここだ」と決めるしかないという当たり前のことになったのですが。

ーあれがいいなと思うのは、「行こうかな」「どうしようかな」と思っている人が可視化されることで、参加してみようかなという気持ちになりますね。

あれでリサーチしている一方で、もちろん宣伝も兼ねているので。「今度こんなんやるんですよ」の第1弾じゃないですか。「自分が興味ある企画がいつ情報出るんかなー。結局何曜日になるんかな」となってくれるので。それはありますね。

Twitterでつながり、企画が生まれた。

ーソーシャルメディアを使ってみて、うまくいったなというご経験はありますか。

SNSの普及で、人との距離感が近づいたのは大きいですね。 例えば、Facebookって知り合ってから「友だち申請」する事がほとんどですよね。でも、Twitterはその逆ではじめての人と知り合うのが圧倒的に多いツールです。

回ってきたり、ふと見かけたりして、ただつぶやきだけが気になるというのがほとんどですけれど、そこからそれを呟いている人自身が気になってフォローしたり、会話がはじまったり。距離を縮めようと思えば縮められるツールなんで、フォローして見ているだけの距離感でもいいし、話しかけて返って来ればそこからリレーがはじまるかもしれないし。

SNSが普及する前みたいにリアルで出会うしかない場合にそういう事をするのは難しいと思うけれど、Twitterではそういう距離の縮まりで仲良くなれるっていうのは大きいですね。あ、いや仲良くなれると言い切ると語弊があるかもしれないので、「なれる可能性が増えた」と言いますか。

実際SNSで仲良くなって、そこから企画をすることになったこともありますね。

演劇のプロデューサーをされている方で、世代的には少し離れているので、僕は一方的にフォローしてTweetを見ていた人の、「こんな風な事例が昔あった」という投稿に対してコメントしたことがきっかけで、実際にワークショップをやってもらうというところまで発展したことがあります。

SNSをはじめてから、文字ではすごくやりとりしているけれど、当日お会いすると「はじめまして」という出会いが結構あるんですよ。

ーいい使い方ですね。ファンづくりのイロハで取り上げてほしいテーマとかありますか?

参加した人全員の体験談とか、やったことと、うまくいったこと、うまくいかなかったことを全員で情報交換したいなというのはありますね。

SNSって人それぞれ使い方が違うので、講義形式で一人だけの目線で「こういう使い方がありますよ」という話だけを聞いても、うまくそれが自分に当てはまらない場合もあると思います。

「この人はこう言うてはったけど、自分には向かへんな」ということがあったりしても、10人20人集まれば、これは私に近いな、というのがあると思います。その日集まった人同士が、何かうまくつながれる方が講座としていいなと。講師と自分だけの関係性で完結する内容なら、横の人が0人でも成立しちゃうじゃないですか。

それだと受講者が何人だろうが得られるものがいっしょで、それなら来ずに映像とかで見てもいいやんてなりそうですけど、実際に横の人から得られたものが大きいと、わざわざ来てよかったなと思うんで。その日、その場所に行ったことによる何かが後に残るものと、講座として開催するという意味で良いかなと思います。

ーなるほど、ありがとうございます! いい話が聞けました。

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